2015年11月1日日曜日

【ネタバレ】劇団パンダデパート2015年度秋公演「トランス」を観た話


電気通信大学には演劇同好会「劇団パンダデパート」という団体があります。

後輩たちが頑張っているとのことで、土曜の13時の回に研究室の闇から這い出て観に行きました。(※1)

■ストーリー
原作があったんですね、知らなかったです。
”トランス” 鴻上 尚史 http://www.amazon.co.jp/dp/4560033757/ref=cm_sw_r_tw_dp_pAFnwb1NCEHWP

ここにもある通り、かつて同級生だった3人の話です。


■劇(ここからネタバレ)
最初は寂しい舞台だと思いました。
白幕に中央にベッド?マット?らしきもののみ。
幕の雰囲気が、FF8でリノアがイデアの部屋に迷い込んだときのムービーを彷彿しました。

ソワソワして待っていると、そこに対照的に今回の役者である3人が上下長袖長ズボンの黒い服の格好で登場。
そして一人の役者がサッと白衣を拾うシーンが、これから始まる舞台はどんなものなのだろうという好奇心をかき立てられるとともに、なんとも言えない胸騒ぎがしました。
さらに意味深な台詞を言って始まる劇、しかし3人ともよく台詞のタイミングが合っているなとしみじみ思いました。

最初こそは参三のオカマっぷりとそれを拒否する雅人、そしてそれを傍観して楽しむ礼子のコミカルなやりとりに笑わせてもらいました。
しかし参三の頼れるアネゴ感とえげつないオカマの二面性切り替えは凄かった。
(まあ他の二人も凄いんですけど,それはまた後述します。)
特に同性愛者だからといって友人を疑うのはアホであるという二人のかけあいは非常にテンポがよかったです。相当練習をしたのだなと思いました。

ただ精神科という気になる設定がどう絡んでくるのかと思っていたところで、日常があっけなく崩れていったところがまず面白かったです。

しかし宦官や多人症とか耳慣れない単語がぽんぽん出てきても、最初「?」となってしまう……。けれどそれらの単語をしっかり淀みなく口から出す後輩たち(ここでは特に雅人)の演技力に引き込まれました。(そしてまた遠い海から来たCooのタイトルが出たことから、この作者さんは相当インテリだなあと思いました。)

個人的に勉強になったシーンは、精神病患者が治ったといえるラインはどこだと参三が礼子に聞いて「例えば、何を触ってもそのあとに一時間ぐらい手を洗い続けてしまう人がいるとしたら、さすがにそういう人は普通に過ごすことはできないでしょう?でもそれが5分まで縮まったら、私たちは治った、と見るの。つまり、社会に適応できるかどうかで見るのよ(ちょっとウロ)」といったところです。
この劇を観たあとだと、確かにそんなものだろうなーと思いました。

物語が進行するにつれて、他の人間関係もみえてくるのですが、それもまたえげつないなりにリアリティがあるんですよね。
礼子が宗教にはまったときを雅人に話すところ、上司の医者と不倫して身ごもった悩みについて、参三が優しくコミカルに慰めるところは「ああこういう友情は本当にありそう」としみじみ思いました。

しかしそういった話が雅人の病気解決にどう関わってくるのかと考えていたところで、「え、どういうこと」とまさかの事実が明らかになってきます。

本当に病気なのは礼子で、礼子が患者で精神科医が雅人?
と思いきや、礼子と雅人が患者で、精神科医が参三?
いやいややはり礼子が精神科医で、参三は過去の恋愛に傷ついている同性愛者で、雅人は自分を天皇と思い込んだ哀れなフリーライター?
という、観客惑わし展開に。

結局これは誰のための誰の視点の話なのか、と考えながら観ていたのですが、
最後に3人が三角形の頂点に立つ形で、それぞれの方向を見ながら「私は、精神を病んでいる人を好きになった(ウロ)」と重ねて繰り返すところは複雑な気持ちになりました。

どうして白幕に3人とも黒い服だったのか、それはもしかしたらこの3人だけ、現実世界から既に乖離してしまった存在であることを示唆しているのかもなと不思議に納得してしまいました。
人によってはバッドエンドかもしれませんが、そういう目線で観るとこれはハッピーエンドかもしれません。永島慎二さんの「その場しのぎの犯罪」を思い出しました。



■総合感想
難しい話で、それぞれの役どころがコロコロ変わるのを演じるのも本当に難しい話だと思いましたが、それを見事に演じきった後輩たちに拍手です。
心情を演じきるところは先述で散々書いたのであれぐらいにしますが、動作で褒めると病院のコーヒーを渡すときのパントマイムは流れる所作が本当に綺麗でした。
(強いて言えばずっとクレ"ア"先生だと思っていたのは内緒だ。)

そして今まで観た中で一番話に引き込まれた劇でした。
音響も、名曲をよく選曲してくれていて個人的に楽しみました。

途中のエンドロールも……いや、おもしろかったです笑

次の公演も楽しみです。(※2)



※1:本当は観ている暇などない
※2:観ている暇を捻出できるだろうか

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